仮想通貨は、盗難リスクよりもセルフGOXリスクのほうが高いから、再び中央集権化へ向かう #005
中途半端だとケガをする。極端に振れず、バランス的思考の必要性が高まっている。FOMO病を悪化させるSNSからは距離をとろう。
今回も、少しクリプト/Web3関連の話をします。
理想と現実の話です。
仮想通貨の世界では、「自分の資産の管理権を自分で握る」ことに意義があると考えられています。中央集権的に管理されることを嫌い、国家や権力から個人に権利を取り戻すといった文脈があるのですね。
自分の資産はウォレットに格納されます。そのウォレットの操作権限は「秘密鍵」を知る者に与えられます。そのため、秘密鍵は他人に渡してはならないとされています。
でも最近、この秘密鍵を預かるサービスが出てきていて、そのサービスの利用者も少なくありません。
ハードウェアウォレット最大手のLedger社のサービス「Ledger Recover」などがその代表格です。
Ledger社に秘密鍵のバックアップをとってもらうサービスです。
秘密鍵は、Ledger社だけでなく複数に分割されて、保管されます。
そして、自分の身分証情報と紐付けをします。
身分証+顔認証で、いつでも自分の秘密鍵にアクセス出来るようにするというサービスです。
Ledger Recoverについては、リリース当初に大炎上して論争へ発展した末にローンチされた経緯があります。私は以前メディアの記事で解説しました。詳しく知りたい方はあわせてどうぞ。
記事:https://cryptojournal.jp/security/7538/
どう思いますか?
一見して、セルフカストディの考え方からすると本末転倒のようにも思えるものです。
しかしこのサービスは、結果として受け入れられている。
それはナゼなのか?
その答を、今日の記事のタイトルに書きました。
非中央集権のカッコよさと不便さ
仮想通貨やWeb3は、「非中央集権性」が協議教則のように唱えられていて、これに従わない行為は「わかってない」「本質的ではない」としてよく非難されます。
けれども、大多数の人々は結局、「非中央集権」とか「政府の監視を回避する」とかいったことに、それほど興味がないのです。2021年頃に呪文のように唱えられていた「DAO(分散型自律組織)」ですらそうです。
「中央がいて何が悪いの?逆にいないと不便じゃん。」と、やはり(多数のライト層は)シンプルにそう思うのです。
非中央集権だとか、セルフカストディだという話はごく一部のマニア層というかコアなクリプトOG達の概念的シロモノとなり、大多数の人間は単に「便利さ」を追い求めるわけです。
まぁ、そりゃ当たり前のことで、誰も概念のために殉教(自分の資産を失う)したくないですから・・・。そこが一番のネックでしょう。
パスワードを忘れた経験
僕たちは誰しも「うっかりミス」をした経験があるし、パスワードを忘れた経験もあります。
その経験があるから、冷静な人々は、自分を過信しません。
自分だけが「秘密鍵」を知っていて、自己管理しなければならないなんて、考えただけでも恐ろしい。
当然、秘密鍵は頭で記憶しきれない(し、記憶したところで忘れることを知っている)ので、シードフレーズを紙に書き留めたり、用心深い人は金属プレートに刻印する。
大事なモノの隠し場所
で、その次はその紙(プレート)の隠し場所に困ります。
なにしろ、「それ(シードフレーズ)を人に見られたらおしまいだ!」と脅されている。事実、シードフレーズや秘密鍵が他者に漏れれば財産を全て失ってしまう。
それを頭の中だけで記憶するのではなく、書き留めるのだとすれば、隠し場所が重要だ。絶対に誰にも見つからない場所など、果たしてあるだろうか。
あなたはどこに隠していますか?
金庫?屋根裏?トイレの貯水タンクの中?浴槽の化粧カバーの中?ふとんの中?
ドロボーという商売
ドロボーという商売が、なぜこれほどまでに流行っているのか考えたことがあるでしょうか。
答えは、誰も彼も、大事なモノを同じような場所に隠すからです。
ドロボーは、大昔からずっとなくならない人気のシゴトの1つです。大流行している。
僕らが、「ここならバレない。安全」と思って隠すような場所は、ドロボーによってとっくに研究済みですし、みんな同じような傾向なんですね。だからドロボーに入られると、僕らは決まって、大事なモノを盗まれて失ってしまうわけです。
金庫なんかにモノをしまっている場合、「ここに金目の物があるから持っていってください」と言っているようなものです。
“金庫は逆に危ない”は、もはや定説ですな
自宅の金庫に金品を保管する場合、ハンパな金庫では役に立たないどころか、逆に「どうぞ持っていってください」と言っているようなものです。
ドロボーは、その場で破壊できなくてもその金庫ごと転がして車まで持っていって奪い去り、あとからゆっくり破壊するのです。
どうしても金庫に保管したい人の為に、おすすめの金庫保管法をお伝えして起きます。
金庫本体の重量は最低でも1トン以上、防盗性能があり耐火性能も2時間以上のもの。(家が火災になると基本中身は燃えます。そのため金属プレートに刻印するほうがよいでしょう。)
1トンと言っても大人が数人でかかれば動きます。
ですので、なおかつ、床などに金属プレートをとりつけ、金庫をそこに溶接して移動できないようにする必要があります。
(中途半端な金庫は使わないほうがマシ。)
たとえば、こちらの金庫などは良いと思います。
この金庫は重量1.7tで、耐火性能3時間、溶断や工具破壊に60分耐えるというスペックです。(逆に言えば、ここまでの本格的な金庫でも、1時間の時間があれば空くということです)
もちろん、金庫の固定が必要です。
こんなイメージです。専門業者に委託するのがよいでしょう。
用心深い人はお気づきでしょうが、こういった金庫や固定工事の業者の顧客リストは、泥棒にとっては格好のエサになります。そもそもセルフカストディに敏感な人だからこそ、そういったことにも敏感であるべきですが、それを気にしだしたらそれこそ全部自分でやらなければならなくなります。
「全部自分で、自己責任で勝手にやれ」それがセルフカストディの基本かと思います。
信頼できる友人経由か、匿名で別場所で金庫の受け渡しをした上で、それを本来設置する場所に運び、固定作業は自分で行うといったことをすれば、保管場所の安全性は守られるでしょう。
そこまでやれますか?という話ではあります。
今回は「金庫」の一例を掘り下げましたが、こうして突き詰めて考えていくと、どの道でも「ここまでやる意味ってなんだっけ?」という疑問に行き当たります。
多くの人は、そのとき「別に便利なんだから中央集権でもよくね?」ということになります。
実際には、バランスをとることになるでしょうが、不便なモノなら誰も使いませんから
裏の裏の裏をかき、先の先の先を行く努力を常に続けなければ、本当の意味でのセルフカストディは達成出来ないと考えているわけですが、つくづく思うのは「こんな大変な思いをしなければならないなら、この概念がマスアダプションすることはあり得ない」です。
利便性にとのバランス
新しいモノが常に「いいもの」であるとは限りません。実用性のある形に落ち着くまでには、原理主義的な考え方から、実際に使って便利だよねとの折衷案でバランスを取った形に落ち着きます。
「非中央集権」というワードが一人歩きしていますし、何が何でもそうじゃなきゃいけないと考える原理主義者は確かに存在するのですが、僕ら一般人からしたら、「だからどうした」って話でもあるので、それが僕らの生活をより便利に、豊かにして始めて意味のあるものだといえます。
あまり偏った考えに凝りすぎず、柔軟な発想を保つことが大事だなぁとつくづく思います。
ハッキングされた~は同情されるけど、セルフGOXした~は同情されない
仮想通貨は自己責任とはいえ、何らかの被害に遭ったときには人々から同情され、助けて貰えることもあるでしょう。ウォレットがハッキングされたとか、NFTを盗まれたとか。Twitterでは拡散され同情の声があつまります。
ハッキングというよりはただの人為的なミスによるものなのですが。ビットコインやイーサリアムのブロックチェーンがハッキングされたり、ハードウェアウォレットLedgerがハッキングされたことは過去に一度もありません。
なので、フィッシングや詐欺に騙された人間のミスであり、技術的にハッキングされたわけではないのです。それでもまだ、悪意ある犯人から資産を奪われたとなれば、同情を買うことはできちゃいます。
でも、自分が保管していたフレーズを忘れたとか、間違えて送金して資金が消えたとかは「自己責任」としてだれも同情しません。アホやな、で終わりです。
この同情を買えるかどうかということは、「いざというときに誰かに助けて貰えるかどうか」ということに影響するので、結構気にしながら生きている人が多いように思います。
Ledger Recoverに魂を捧げる(秘密鍵を渡す)人の心理には、責任転嫁とみんなで渡れば恐くない心理があるのでしょう。
Ledgerに預けておいたフレーズがハッキングで盗まれたら、まぁLedgerは責任を持って賠償してくれるだろうという、中央集権的な甘えがあるように思います。
こうしたサービスは需要があるので今後増えていくはずで、結局非中央集権じゃないんだね。じゃあ今までの銀行とか国とかと何が違うんだっけ?
という、原点に立ち返った議論が、また人々をより混乱させていくでしょう。
インフルエンサーは基本的に嘘つきです。
FOMO病にかかっている現代人はとにかくSNSの利用を控えた方がよろしいかと。
またそのうちFOMO病の話もしましょう。
SNSで他人の投稿ばかり見ているとFOMO病が悪化します。発信する側に立てば良いのですが、発信だけして受信を見ないというわけにはいかないので、まぁアプリ消すのが一番なのかもしれませんな。
🧠問い。
みなさんは、シードフレーズをどのように管理していますか?
問いの答えは、このメールに返信すると、直接私に届きます。
実際、プレートに刻みつけてどこか安全な場所へ保管していますか?
PCや、どこかのクラウドに保管している人も、実はいるんじゃ無いですか?
ま、それが答えのような気がします。